FIP猫伝染性腹膜炎
FIP猫伝染性腹膜炎 について
FIP猫伝染性腹膜炎は、多頭飼いの家庭の約80~90%の猫が感染している、猫腸コロナウイルスに感染した猫の一部(10-15%)が FIP 猫伝染性腹膜炎ウイルス に変異することで発症します。症状は体液が全身に漏出する滲出性と全身に肉芽腫を形成する乾性型があり、95%は7歳未満、70%は1歳半未満、50%は生後7か月未満の猫に発症し、高齢猫にも発症することがある致死的な病気です。雄が約 60 パーセント、雌が 40 パーセントを占めており、雄に多い傾向があります。完全に予防することは不可能ですが、猫を複数飼われている方は出来る限り予防してください。
目次
FIP猫伝染性腹膜炎治療薬モヌルピラビルに副作用はありますか?
関連NEWS
新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」製造ライセンス使用料を免除
猫伝染性腹膜炎に対する未承認の抗ウイルス薬の品質評価と特性評価:治療、安全性、有効性への影響
FIP猫伝染性腹膜炎の猫にみられるブドウ膜炎 前眼房混濁
FIP猫伝染性腹膜炎の病因は?
FIP猫伝染性腹膜炎は猫腸コロナウイルス感染症の変異によって発症します。猫腸コロナウイルス感染症は多くの猫に感染しており、感染力が非常に高く、多頭飼いの家庭では約80~90%の猫が感染しています。腸上皮に感染し、糞便中に排出され、無症状か、軽度の下痢を発症します。猫腸コロナウイルスに感染した一部の猫が(10-15%)、 FIPV の毒性生物型となり、FIP を引き起こす変異が発生します。FIPは単球およびマクロファージ内で複製するため、伝播能力が促進されます。FIPを引き起こす正確な変異は不明ですが、3c 遺伝子の欠失または変異が関与している可能性があります。
FIP 猫伝染性腹膜炎FIPの感染経路は?
猫は糞口経路(便を介して)で猫腸 コロナウイルスに感染します。感染した猫とトイレを共有が感染経路です。コロナウイルスに感染した猫の約 33% が糞便中にウイルスを排出します。猫の中には数か月しかウイルスを排出しない猫もいますが、猫の約 13% は生涯保菌者となり、継続的に腸コロナウイルスを排出します。FIP猫伝染性腹膜炎 は 腸コロナウイルスの変異後に発症し、FIP猫伝染性腹膜炎ウイルス の直接感染によって発症することは まれです。FIP猫伝染性腹膜炎ウイルス の糞便中への排出はほとんどありません。
FIP猫伝染性腹膜炎の病態
FIP 猫伝染性腹膜炎は、ウイルス抗原、抗ウイルス抗体、補体が関与する免疫介在性疾患であると考えられています。FIPウイルス は単球とマクロファージに感染し、初期段階で播種と全身性炎症を引き起こし、感染した単球は内皮に付着したり血管外に遊出して、ウイルスがさまざまな組織に侵入できるようになります。FIP 猫伝染性腹膜炎ウイルス は抗体、マクロファージ、好中球を引きつけ、補体結合を引き起こします。補体固定により血管作動性アミンが放出され、血管透過性が増加し肉芽腫性病変の発生を伴います。免疫複合体が形成され、血管損傷や血管炎をおこし、抗体依存性増強(ADE)によって、マクロファージによるコロナウイルスの取り込みを促進します。
FIP猫伝染性腹膜炎を発症しない猫がいるのですか?
FIP 猫伝染性腹膜炎を発症しない猫は細胞性免疫応答を持っていると考えられており、分泌型 IgA による体液性免疫が初期感染の予防に役立っていると考えらており、私は母猫からの授乳が重要と考えています。
耐性(FIPになりにくい)遺伝子も特定されています。海外の検査機関で調べることが可能です。耐性遺伝子突然変異 : fIFNG c.428T>C遺伝子を持っていればFIP猫伝染性腹膜炎になりにくいと言われていますクリック➡FIP 耐性遺伝子検査 機関サイト
FIP 猫伝染性腹膜炎の発症年齢は?
FIP 猫伝染性腹膜炎は雄が約 60 パーセント、雌が 40 パーセントを占めており、雄に多い傾向があります。世界中のすべての猫のうち、FIP猫伝染性腹膜炎 による猫の死亡率は 0.3% ~ 1.3% であると考えられています。95%は7歳未満、70%は1歳半未満、50%は生後7か月未満の猫で発生します。
FIP 猫伝染性腹膜炎臨床形態
FIP 猫伝染性腹膜炎には 2 つの主要な形態、滲出性型と非滲出性 (乾燥) 型があり、3 番目の混合型もあります。
滲出性FIP
ストレスの多い出来事(例えば、新しい家、手術、保護施設)の4〜6週間後に発症する急性型です。非滲出型よりも急速に進行します。症状は血清タンパク質と体液の体腔への漏出を伴う血管炎です。
乾性 FIP
細胞性免疫応答は部分的に成功したによって発症します。潜伏期間は数か月から数年までさまざまです。臨床症状は臓器の肉芽腫形成によって発生し、湿性 FIP は、乾性型の最終事象として発生する可能性があります。
重要 FIP 猫伝染性腹膜炎は予防できますか?
完全に予防することは出来ませんが、出来る限り予防しましょう
4頭以上の多頭飼育は腸コロナウイルスの感染が収まりませんので、4頭以内で飼育してください。
多頭飼育されている方は 4頭以下のグループに分けてお互いの接触を避けてください。
研究で保護施設で1週間過ごした後、猫は猫コロナウイルスの排泄量が数百万倍に増加したことが示されました。
子猫は保護施設等に入るべきではなく、そのまま里親の家に迎え入れるようにしてください。コロナを含むすべての感染症にさらされる可能性が低くなります。
初乳と授乳による分泌型 IgA 体液性免疫受動免疫が子猫をコロナウイルス感染から効果的に守ることができます。
早期離乳はやめてください。初乳を飲んでいない子猫は、他の猫との接触を避けて直接里親に渡してください。
トイレの砂の材質(鉱物系の砂は殺ウイルス効果が認められています)を使用して毎日掃除してください。
1;31で希釈した塩素系漂白剤(キッチンハイター)でトイレを消毒してください。
猫トレイのスコップ、ブラシ、猫の吐物、掃除機、室内スリッパ なども塩素系漂白剤で消毒してください
トイレを餌入れや水入れから遠ざけることが、 コロナウイルス感染の伝播を防ぐために重要です
FIP猫伝染性腹膜炎の診断方法は?
高タンパク血漿
マグロブリンのポリクローナルな増加によって引き起こされます。低アルブミン血症もみられ、アルブミンとグロブリンの比率 (A:G 比率) が低くなります。
研究では、FIP猫伝染性腹膜炎を患う 186 匹の猫のうち 65% の A:G 比が 0.6 未満であったと報告されました。別の報告では、血清 A:G 比が 0.8 未満の場合、FIP の陽性的中率は 92% であることが示されました。A:G 比>0.8 の陰性的中率は 61% でした。
ACVIMのコンセンサスステートメントでは A:G 比0.9未満がカットオフになります。
診断基準PDF ☛FIP診断基準
現時点での診断基準ではまだ陰性的中率が低いです、英国グラスゴ-大学で人口知能の機械学習で的中率99%の診断を開発中です
FIP猫伝染性腹膜炎は治りますか?治療薬はありますか?
新しく開発された人間のコロナウイルス治療薬であるモルヌピラビル治療に有効性が認められました。
当院も2022年から処方を開始し、多くの症例に効果が認められております。
「モルヌピラビル」は開発会社のメリアルは2021年から COVIX19終息の為国連と協議し、途上国での「モヌルピラビル」のライセンスを放棄しておりますので 1回の内服は500円程度で、今までの治療薬に比べ安価に処方できます。
モルヌピラビルの作用機序
モルヌピラビルは、ヒトの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療するために開発された、ヌクレオシド類似体です、代謝物質です BD-N4-ヒドロキシシチジンは、コロナウイルスのグアニンからアデニン、シトシンからウラシルへのヌクレオチド遷移変異を増加させ、ウイルスを不活化します。研究では、モルヌピラビルで治療を受けた猫 24 匹中 21 匹 (88%) で臨床的寛解が達成されました。
モヌルピラビルに副作用はありますか?
23 mg/kg を超える高用量で 12 時間ごとに経口投与した場合、折れ耳 (n=1)、折れひげ (n=1)、白血球減少症 (n=1) が報告されてますが、
治療容量での重篤な副作用報告は現時点ではありません。
18匹の猫を対象としたモヌルピラビル観察研究で報告された唯一の有害事象は、治療開始から10日以内の血清アラニントランスフェラーゼの増加(猫18匹中n=4)とビリルビンの増加でした.
2023年世界猫医学学会の治療UPDATE 👉2023FIP UPDATE
当院の系列病院 バステトキャットクリニックでも「モルヌピラビル」を処方しております
FIP猫伝染性腹膜炎のワクチンはありますか?
猫腸コロナウイルスに に対しては、米国に鼻腔内投与の改変生ウイルス (MLV) ワクチンがありますが、FIPワクチンは存在しません。鼻腔投与ワクチンによる分泌型 IgA 抗体はコロナウイルスの変異株に効果を示す交叉防御能を持ちます。
私は変異が激しいコロナウイルスは注射による抗体を誘導するワクチンは効果がないだけでなく、抗体依存性増強(ADE)の危険があると考えています。コロナウイルスに一度感染したことがある動物にワクチンは効果はありません。
FIP猫伝染性腹膜炎関連NEWS
新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」製造ライセンス使用料を免除
【日本経済新聞】米製薬大手メルクは、開発中の新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」を幅広い地域で供給するため、国連の関係機関がつくった非営利団体(NPO)「医薬品特許プール(MPP)」に製造ライセンスを供与すると発表した。後発薬メーカーなどが途上国向けに安価に生産できるようになる。各国の後発薬メーカーなどは、MPPを通しライセンスを取得できる。モルヌピラビルを共同開発したメルクと米バイオ製薬リッジバック・バイオセラピューティクスは、新型コロナが世界保健機関(WHO)の「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」とされる期間中、低・中所得105カ国向けの供給を手がけるメーカーに製造ライセンス使用料を免除する。
猫新型コロナ発現 地中海のキプロスでアウトブレイク
2022年地中海の小さな島で新型FIPのアウトブレイクが起こり数千頭の猫が発症しました。今までのFIPに比べて非常に高い死亡率と発症率で遺伝子の分析の結果新型であることがわかり、FCOV23と名付けられました。困ったことにこの新型コロナウイルス株は、キプロスからイギリスに輸入された数匹の猫からも検出されました。イギリスに輸入された猫たちが、外を歩き回って感染を広げ、より毒性の高い新たな株FCOV23が世界中の国々に伝搬しやがて日本にやってくる可能性があるのではないかと恐れています。そしてもうひとつの懸念は、キプロス政府が モヌルピラビル をキプロスのFIP猫に大量に投与していることで、コロナウイルスは非常に変異が早いウイルスですので、やがてモヌルピラビル耐性FIP株が出現することです。
猫伝染性腹膜炎に対する未規制の抗ウイルス薬の品質評価と特性評価:治療、安全性、有効性への影響
Quality assessment and characterization of unregulated antiviral drugs for feline infectious peritonitis: implications for treatment, safety, and efficacy
and PhD未承認のGS-441524 、GC376 、有効性は非常にばらつきがあり、中には有効成分が全く含まれたいなかったり、違う成分が混入していました。本論文では、未承認のGS-441524 、GC376を使用することで、猫に重篤な副作用を及ぼす危険を示しています。
姉妹病院名古屋の猫専門病院バステトキャットクリニックでも同様のFIP猫伝染性腹膜炎モヌルピラビル治療を行っております。
☛バステトキャットクリニック
名古屋夜間救急動物病院 こざわ犬猫病院☛アクセス