月の満ち欠けとてんかん
月の満ち欠けとてんかん について
月の満ち欠けとてんかん:迷信か、科学的根拠か
月の周期がてんかんに影響を与えるという考えは、古代から多くの文化に存在しています。てんかん患者を指す「lunatic」(ルナティック)という言葉は、ラテン語で月を意味する「luna」に由来しており、発作などの異常行動は満月が原因だと信じられてきました。
月の満ち欠けが発作に影響を及ぼす可能性について、科学的な仮説としては、月の重力の影響や、夜間の明るさの変化が睡眠サイクルに影響を与えるというものが挙げられています。
ヒトにおける研究結果の現状:矛盾する見解
ヒトを対象とした研究では、月の周期とてんかん発作の関連性について一貫した結果は得られていません。
- 満月の期間中に、てんかん発作による救急外来の受診が増加したという報告があります。
- 一方で、てんかんモニタリングユニットの患者を対象とした研究では、満月に関連する発作頻度の増加は確認されていません
夜空全体の明るさをコントロールした別の研究では、月の満ち欠け自体と発作頻度には直接的な関係が見られませんでした。このことから、月の満ち欠けと発作の関連は、月周期そのものではなく、夜空の明るさの変化が引き起こす間接的な影響によるものと示唆されています。
また、夜空の明るさとは無関係に、満月の期間中に「非てんかん性イベント」が増加するという興味深い観察結果もあります。これは、満月に関する通説が引き起こす心理的な「ノセボ効果(マイナスの暗示効果)」の可能性を示唆しています。
睡眠不足が発作の引き金に?
世界中のインターネット検索データからは、月の光量が多い時期にてんかん関連の検索が増加していることが判明しています。これは、満月の期間中に覚醒時間が増加し、睡眠の質が低下することが原因と考えられています。
睡眠不足はてんかん発作の主要な誘因の一つであり、月の満ち欠けが睡眠パターンに影響を与えるという認識は、てんかんを持つ犬の飼い主の20〜25%が発作の引き金として挙げています。
犬と猫における研究結果:飼い主の認識とのギャップ
動物病院の記録を分析した研究では、犬と猫の両方において、満月の日に救急外来の受診件数が増加することが示されています[。
しかし、てんかん発作と月周期の関係を直接評価した大規模な後ろ向き研究では、犬と猫のどちらにおいても両者の間に統計的な関連性は認められませんでした。
結論として、 月の満ち欠けが直接てんかん発作を引き起こすという科学的根拠は確立されていません。しかし、満月の時期に睡眠の質が低下する可能性や、飼い主の心理的な影響が発作の引き金となる間接的な要因については、引き続き研究の余地があると言えるでしょう。