犬のてんかんにMCTオイル
犬のてんかんにMCTオイル について
はじめに:愛犬のてんかんでお悩みの飼い主様へ
愛犬のてんかん 発作をを見るのは、飼い主様にとって本当につらいことです。既存の治療薬でなかなか発作がコントロールできない場合、「他に何かできることはないだろうか?」と日々悩んでいらっしゃるかもしれません。
そんな飼い主様のために、近年注目されている**「MCTオイル」**と犬のてんかん治療への可能性について、

獣医師の視点から詳しく解説します。もしかしたら、この情報が愛犬のQOL向上に繋がるかもしれません。ぜひ最後までお読みください。
MCTオイルとは? 消化吸収が速い「特別な油」
MCT(Medium Chain Triglyceride)オイルは、ココナッツオイルなどに多く含まれる中鎖脂肪酸を主成分とする油です。一般的な油(長鎖脂肪酸)と比べて、以下のような特徴があります。
- 消化吸収が非常に速い: 効率よくエネルギーに変換されます。
- 肝臓で効率よくケトン体に変換される: この「ケトン体」が、てんかん治療において重要な役割を果たすと考えられています。
犬のてんかん発作とMCTオイル・ケトン体の関係
てんかん発作は、脳の神経細胞が過剰に興奮することで起こります。この過剰な興奮を抑える方法として、「ケトン食療法」が知られており、そのメカニズムにケトン体が深く関与していると考えられています。
ケトン体の抗てんかん作用のメカニズム
- 脳の主要エネルギー源の代替: 通常、脳の主要なエネルギー源はブドウ糖ですが、MCTオイルによって体内で生成されるケトン体を主要なエネルギー源とすることで、脳のエネルギー代謝が変化し、神経の興奮性が抑制されると考えられています。
- 神経保護作用: ケトン体には、神経細胞を保護する作用や、細胞内のエネルギー産生工場であるミトコンドリアの機能を改善する作用も示唆されています。
犬のてんかん治療におけるMCTオイルの具体的な利用法と効果
MCTオイルは、特に難治性てんかんの犬の補助療法として注目されています。
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難治性てんかんの補助療法: 抗てんかん薬で発作が十分にコントロールできない難治性てんかんの犬に対して、MCTオイルを含む犬用ケトン処方食が販売されています。ピュリナのニューロケアなどがその一つです。(https://nestle.jp/brand/purina/proplanveterinarydiets/product/dog/nc-neurocare)
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人間用MCTオイルの活用: 実は、一般のスーパーやAmazonなどで販売されている人間用のMCTオイルでも、犬のてんかんへの効果が期待できます。実際に試してみたいとお考えの飼い主様は、ぜひかかりつけの獣医にご相談ください。
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発作頻度の減少が報告: 研究では、MCTオイルを配合した処方食を与えられたてんかんの犬において、発作の頻度が減少したことが確認されています。中には、発作頻度が半減したり、完全に発作が消失した例も報告されており、その効果が期待されます。
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特定疾患への応用: グルコーストランスポーター1欠損症(Glut1DS)など、特定のてんかん関連疾患では、ケトン食療法が標準治療として推奨される場合もあります。
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人間の治療でも活用: MCTオイルは、人間の難治性てんかんの患者さんにも利用されており、小児てんかん症例におけるMCTオイル治療の動画(韓国での放送事例)も参考になります。 (https://www.youtube.com/watch?v=We87qPCzAgM)
犬のてんかんに与える MCTオイルの適切な投与量と注意点
MCTオイルは効果が期待できる一方で、投与量や投与回数については、動物の体重や症状、使用するMCTオイルのカロリーによって大きく異なります。
必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指導に従って投与してください。 自己判断での投与は、予期せぬ健康問題を引き起こす可能性があります。
参考文献
- 中鎖脂肪酸(MCT)サプリメントが犬の特発性てんかんに及ぼす短期的影響を調査するための二重盲検ランダム化栄養補助食品クロスオーバー試験設計:研究プロトコル PMCID: PMC6543566 PMID: 31146740
- 非臨床環境における健康な犬のコホートにおける中鎖トリグリセリドオイルサプリメント (MCT) の経口嗜好性テストPMCID: PMC9264852 PMID: 35804538
- 群発発作のない特発性てんかんの犬における発作頻度の減少に対する中鎖トリグリセリド油の食事性補給の有効性:非盲検の前向き臨床試験。PMCID: PMC7799411 PMID: 32532842