こざわ犬猫病院

FIP猫伝染性腹膜炎 

FIP猫伝染性腹膜炎  について

FIP猫伝染性腹膜炎とは?多頭飼いで注意すべき致死的ウイルス疾患

FIP猫伝染性腹膜炎は、猫の命に関わる非常に重篤なウイルス性疾患です。
この病気は、猫腸コロナウイルス(FECV)に感染した猫の一部(約10〜15%)が、体内でFIP猫伝染性腹膜炎ウイルスに突然変異することで発症します。


■ 感染の背景と発症リスク

  • 猫腸コロナウイルスは多頭飼育環境での感染率が非常に高く、約80〜90%の猫が感染しているとされています。

  • しかし、すべての猫がFIP猫伝染性腹膜炎を発症するわけではありません

  • 発症率は感染猫のうち**約10〜15%**とされていますが、発症すると致死率が非常に高いのが特徴です。


■ FIP猫伝染性腹膜炎の発症年齢・性別の傾向

  1. 95%が7歳未満
  2. 70%が1歳半未満
  3. 50%が生後7か月未満
  4. 高齢猫にも発症の可能性あり
  5. 性別では雄が60%、雌が40%と雄猫に多い傾向

■【新型コロナウイルス治療薬「モルヌピラビル」について】

人間の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療において、**新しく開発された経口抗ウイルス薬「モルヌピラビル」**がFIP猫伝染性腹膜炎に高い有効性を示しています。

当院では、2022年よりFIP猫伝染性腹膜炎にモルヌピラビルの処方を開始しており、多くの症例で改善効果が確認されています。

■ COVID-19治療薬がFIPに効果

人間の新型コロナの感染拡大により急速に開発された**経口抗ウイルス薬(例:モルヌピラビルやGS-441524関連薬)**の中には、FIP猫伝染性腹膜炎に対しても高い効果を示すものがあり、多くの猫が救われるようになってきました。


■ しかも「非常に低価格」で入手可能に

開発企業メルク社(米Merck)とリッジバック社がは、2021年には、新型コロナウイルスの世界的終息を目指し、国連と協議のうえ低所得国へのライセンス供与や特許放棄を行い、FIP猫伝染性腹膜炎治療に転用される薬剤が非常に安価、1回数百円程度で投与可能になり、2021年まで数十万円かかっていた治療が2022年からは現実的な価格帯へと変化しています。


■ パンデミックがもたらした皮肉な恩恵

人類を苦しめたCOVID-19パンデミックが、猫の不治の病に対する治療薬を生み出し、希望をもたらすことになったのは、なんとも皮肉な事実です。しかしそれにより、世界中の猫たちがFIP猫伝染性腹膜炎から救われる道が開かれたのは間違いありません。

目次

  1. FIP猫伝染性腹膜炎の病因は?
  2. FIP猫伝染性腹膜炎の感染経路は?
  3. FIP猫伝染性腹膜炎の病態
  4. FIP猫伝染性腹膜炎を発症しない猫がいる?
  5. FIP猫伝染性腹膜炎の発症年齢は?
  6. FIP猫伝染性腹膜炎臨床形態
  7. 重要FIP猫伝染性腹膜炎は予防できますか?
  8. FIP猫伝染性腹膜炎の診断方法は?
  9. FIP猫伝染性腹膜炎は治りますか?
  10. 猫伝染性腹膜炎治療薬モルヌピラビルの作用機序
  11. モルヌピラビルはGS-441524より効果が劣りますか
  12. モヌルピラビルに副作用はありますか?
  13. FIP猫伝染性腹膜炎のワクチンはありますか?
関連NEWS
  1. 新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」製造ライセンス使用料を免除
  2. 猫新型コロナ発現 地中海のキプロスでアウトブレイク
  3. 猫伝染性腹膜炎に対する未承認の抗ウイルス薬の品質評価と特性評価:治療、安全性、有効性への影響

参考文献一覧

 

FIP猫伝染性腹膜炎  ブドウ膜炎症状
FIP猫伝染性腹膜炎  ブドウ膜炎症状

FIP猫伝染性腹膜炎の猫にみられるブドウ膜炎 前眼房混濁

1・FIP猫伝染性腹膜炎の病因は?

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫腸コロナウイルス(FCoV)が猫の体内で変異することによって発症します。

猫腸コロナウイルスは非常に感染力が強く、多くの猫が感染しており、特に多頭飼いの環境では約80〜90%の猫が感染しているとされています。このウイルスは腸上皮に感染し、糞便中に排出されますが、ほとんどの猫は無症状か、軽度の一過性の下痢で終わります。

しかし、猫腸コロナウイルスに感染した猫のうち、ごく一部(10〜15%)でウイルスがFIPVと呼ばれる毒性の高いタイプに変異し、FIPを発症します。この変異したウイルスは、単球やマクロファージ内で複製するため、全身に広がりやすくなります。

FIPの発症には、ウイルスの3c遺伝子の欠失や変異が重要であると考えられています。また、FIPを発症するかどうかは、猫が細胞性免疫応答を持っているかどうかに大きく左右されます。分泌型IgAによる体液性免疫が初期感染の予防に役立っていると考えられており、母猫からの授乳がこの初期免疫の獲得に重要であると私は考えています。

最終的に、これらの要因が複合的に作用することで、FIPを発症するか否かが決まると言えます

FIP猫伝染性腹膜炎の有病率とリスク

有病率
動物病院で診察される新規の猫の症例のうち、約200匹に1匹の割合でFIPと診断されています。

リスク
FIPの発症には、いくつかのリスク要因が関連していると考えられています。

1 多頭飼育環境:複数の猫が同居する家庭や、キャッテリー(猫の繁殖施設)のような多頭飼育環境では、FIP猫伝染性腹膜炎の発生率が高くなる傾向があります。これは、猫同士の接触機会が増え、コロナウイルスの感染が広がりやすくなるためと考えられます。しかし、FIPに罹患した猫186匹を対象としたある報告では、71%が1匹または2匹の猫がいる家庭で暮らしていたとされており、多頭飼育だけが唯一の要因ではないことが示唆されています。

2 ストレス:FIP猫伝染性腹膜炎を発症する猫は、過去数ヶ月以内にストレスとなる出来事を経験していることが多いです。具体的には、新しい飼い主への移動(里親探し)、去勢・避妊手術などの選択的(非緊急)な手術、他の病気の併発、ペットホテルへの預かりなどが挙げられます。ストレスは猫の免疫力を低下させ、ウイルスが活性化しやすい状態を作り出す可能性があります。

3 FeLV(猫白血病ウイルス)との同時感染:FeLVとの同時感染も、FIP猫伝染性腹膜炎の発症に影響を与える可能性があると指摘されています。FeLVも猫の免疫系に影響を与えるウイルスであり、FCoV(猫コロナウイルス)との複合感染がFIPの発症リスクを高める可能性があります。

これらの要因は、FIP猫伝染性腹膜炎の発症リスクを理解し、予防策を講じる上で重要となります。

2・FIP猫伝染性腹膜炎FIPの感染経路は?

猫は糞口経路(便を介して)で猫腸 コロナウイルスに感染します。感染した猫とトイレを共有が感染経路です。コロナウイルスに感染した猫の約 33% が糞便中にウイルスを排出します。猫の中には数か月しかウイルスを排出しない猫もいますが、猫の約 13% は生涯保菌者となり、継続的に腸コロナウイルスを排出します。FIP猫伝染性腹膜炎 は 腸コロナウイルスの変異後に発症し、FIP猫伝染性腹膜炎ウイルス の直接感染によって発症することは まれです。FIP猫伝染性腹膜炎ウイルス の糞便中への排出はほとんどありません。

3・FIP猫伝染性腹膜炎の病態

FIP 猫伝染性腹膜炎は、ウイルス抗原、抗ウイルス抗体、補体が関与する免疫介在性疾患であると考えられています。FIPウイルス は単球とマクロファージに感染し、初期段階で播種と全身性炎症を引き起こし、感染した単球は内皮に付着したり血管外に遊出して、ウイルスがさまざまな組織に侵入できるようになります。FIP 猫伝染性腹膜炎ウイルス は抗体、マクロファージ、好中球を引きつけ、補体結合を引き起こします。補体固定により血管作動性アミンが放出され、血管透過性が増加し肉芽腫性病変の発生を伴います。免疫複合体が形成され、血管損傷や血管炎をおこし、抗体依存性増強(ADE)によって、マクロファージによるコロナウイルスの取り込みを促進します。

4・FIP猫伝染性腹膜炎を発症しない猫がいるのですか?

FIP 猫伝染性腹膜炎を発症しない猫はネココロナウイルスゲノムのSおよび3c遺伝子の突然変異がなく細胞性免疫応答を持っていると考えられており、分泌型 IgA による体液性免疫が初期感染の予防に役立っていると考えらており、私は母猫からの授乳が重要と考えています。

耐性(FIPになりにくい)遺伝子も特定されています。海外の検査機関で調べることが可能です。耐性遺伝子突然変異 : fIFNG c.428T>C遺伝子を持っていればFIP猫伝染性腹膜炎になりにくいと言われていますクリック➡FIP 耐性遺伝子検査 機関サイト

発症しやすい種類として アビシニアン、ベンガル、バーマン、ヒマラヤン、ラグドール、レックスなど、特定の品種はFIP猫伝染性腹膜炎を発症しやすい場合があります。FIP猫伝染性腹膜炎は、雑種や飼い猫の短毛種に比べて、純血種の猫に発症する可能性が高くなります。オスの方がメスよりも発症率が高いです。若い猫で最も多く診断されます。研究によると、多くの猫は2歳未満です。ある研究では、診断時の年齢の中央値は11ヶ月でした。高齢猫(10歳以上)にも見られます。

5・FIP 猫伝染性腹膜炎の発症年齢は?

FIP 猫伝染性腹膜炎は雄が約 60 パーセント、雌が 40 パーセントを占めており、雄に多い傾向があります。世界中のすべての猫のうち、FIP猫伝染性腹膜炎 による猫の死亡率は 0.3% ~ 1.3% であると考えられています。95%は7歳未満、70%は1歳半未満、50%は生後7か月未満の猫で発生します。

6・FIP 猫伝染性腹膜炎臨床形態

FIP 猫伝染性腹膜炎には 2 つの主要な形態、滲出性型と非滲出性 (乾燥) 型があり、3 番目の混合型もあります。

滲出性FIP猫伝染性腹膜炎

ストレスの多い出来事(例えば、新しい家、手術、保護施設)の4〜6週間後に発症する急性型です。非滲出型よりも急速に進行します。症状は血清タンパク質と体液の体腔への漏出を伴う血管炎です

滲出性FIPは、ストレスのかかる出来事(例:引越し、手術、保護施設への入居)から4〜6週間後に発症する急性の病気です。非滲出性FIP(ドライタイプFIP)と比べて、進行が速いことが多いのが特徴です。

FIP猫伝染性腹膜炎の腹水
滲出性FIP猫伝染性腹膜炎  腹水
FIP猫伝染性腹膜炎
FIP猫伝染性腹膜炎 胸水レントゲン像

乾性 FIP猫伝染性腹膜炎 ドライタイプ

非滲出性FIP(ドライタイプFIP)は、部分的に成功した細胞性免疫応答によって引き起こされることがあります。潜伏期間は数ヶ月から数年と長く、遅延型過敏症反応と、マクロファージ内での低レベルのウイルス増殖が特徴です。

この病気の症状は、臓器に肉芽腫と呼ばれるしこりが形成されることで現れ、どの臓器が侵されるかによって症状が異なります

また、非滲出性FIPが進行し、末期症状として滲出性FIP(ウェットタイプFIP)に移行することもあります。

FIP猫伝染性腹膜炎 腸管の周りに肉芽腫を形成します
乾性FIP猫伝染性腹膜炎 ドライタイプ、腸管の周りに肉芽腫を形成します
FIP猫伝染性腹膜炎ドライタイプに認められた腎臓の肉芽腫
FIP 猫伝染性腹膜炎ドライに認められた腎臓の肉芽腫

臨床症状
嗜眠、食欲不振、体重減少、成長率の低下、断続的な発熱、黄疸、腹部膨張、腹部腫瘤、嘔吐、下痢、リンパ節腫脹、粘膜蒼白、呼吸困難、頻呼吸、臓器腫大、神経学的徴候(例:発作、抑うつ、運動失調、麻痺、傾斜頭部、旋回、眼振、瞳孔不同、知覚過敏)、眼異常(例:失明、前部ぶどう膜炎、脈絡網膜炎、汎ぶどう膜炎、前房出血、網膜剥離、網膜出血)、皮膚の脆弱性、皮内丘疹、陰嚢浮腫が認められる場合があります。

7.重要 FIP猫伝染性腹膜炎は予防できますか?

完全に予防することは出来ませんが、出来る限り予防しましょう
1.4頭以上の多頭飼育は腸コロナウイルスの感染が収まりませんので、4頭以内で飼育してください。
多頭飼育されている方は 4頭以下のグループに分けてお互いの接触を避けてください。
2.研究で保護施設で1週間過ごした後、猫は猫コロナウイルスの排泄量が数百万倍に増加したことが示されました。
3.子猫は保護施設等に入るべきではなく、そのまま里親の家に迎え入れるようにしてください。コロナを含むすべての感染症にさらされる可能性が低くなります。
4.初乳と授乳による分泌型 IgA 体液性免疫受動免疫が子猫をコロナウイルス感染から効果的に守ることができます。
5.早期離乳はやめてください。初乳を飲んでいない子猫は、他の猫との接触を避けて直接里親に渡してください。
6.トイレの砂の材質は鉱物系の砂(鉱物系の砂は殺ウイルス効果が認められています)を使用して毎日掃除してください。
7.1;31で希釈した塩素系漂白剤(キッチンハイター)でトイレを消毒してください。
猫トレイのスコップ、ブラシ、猫の吐物、掃除機、室内スリッパ なども塩素系漂白剤で消毒してください
8.トイレを餌入れや水入れから遠ざけることが、 コロナウイルス感染の伝播を防ぐために重要です

8.FIP猫伝染性腹膜炎の診断方法は?

高タンパク血漿

マグロブリンのポリクローナルな増加によって引き起こされます。低アルブミン血症もみられ、アルブミンとグロブリンの比率 (A:G 比率) が低くなります。

FIP猫伝染性腹膜炎 FIPの発症機序
FIP猫伝染性腹膜炎 発症アルゴリズム

研究では、FIP猫伝染性腹膜炎を患う 186 匹の猫のうち 65% の A:G 比が 0.6 未満であったと報告されました。別の報告では、血清 A:G 比が 0.8 未満の場合、FIP の陽性的中率は 92% であることが示されました。A:G 比>0.8 の陰性的中率は 61% でした。

ACVIMのコンセンサスステートメントでは A:G 比0.9未満がカットオフになります。

FIP猫伝染性腹膜炎 の腹水
FIP 猫伝染性腹膜炎 腹水

診断基準PDF ☛FIP診断基準

現時点での診断基準ではまだ陰性的中率が低いです、英国グラスゴ-大学で人口知能の機械学習で的中率99%の診断を開発中です

抗体価測定の限界について

抗体価の測定は、多くの場合、FIP猫伝染性腹膜炎の診断にいたりません。その理由は以下の通りです。
まず、抗体価はFCoV(猫コロナウイルス)に対する抗体を測定するものであり、FIPの原因であるFIPV(FIPウイルス)に特異的ではありません。健康な猫の多くがFCoV抗体陽性ですが、実際にFIPを発症するのはごく一部(5〜12%)にすぎません。ほとんどの猫はFCoVに曝露しても感染し、約18〜21日で血清転換(抗体陽転)しますが、FIPにはなりません。また、過去のFCoVワクチン接種によっても抗体陽性となることがあります。
さらに注意が必要なのは、FIPを発症している猫の約10%は、抗体価が低いか陰性であるということです。これは、胸水や腹水などの滲出液中に抗体が失われる場合や、抗体がウイルスに結合して検査用の抗原と反応しなくなる場合に起こります。
最後に、抗体価が高いからといって、必ずしもFIPを発症するわけではありません。抗体価が高い場合は、コロナウイルスを排出する可能性が高いことが示されていますが、これはFIPの診断に直結するものではありません。また、滲出液と血清の抗体価を比較しても、診断上の価値はないとされています。
これらの理由から、抗体価の測定のみでFIPの診断を下すことは困難であり、他の検査結果と総合的に判断する必要があります。

PCRアッセイのFIP診断における評価
標準的なPCRアッセイの限界

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイは、様々な組織中のウイルスRNAを検出できる有用なツールですが、FIP(猫伝染性腹膜炎)の診断においてはいくつかの限界があります。
* 偽陰性:ウイルスが変異している場合や、不適切なプライマーが使用された場合、偽陰性の結果が生じる可能性があります。
* 非特異性:FIPV(FIPウイルス)の遺伝子配列は特定されていないため、PCRプライマーは変異したコロナウイルスと変異していないコロナウイルスを区別できません。これは、FCoV(猫コロナウイルス)に感染している健康な猫でも陽性となる可能性があることを意味します。
* 実際、FIPに感染した猫67匹の体液を用いたPCRアッセイの研究では、感度100%、特異度98%と報告されています。
* しかし、EDTA添加血液を用いたアッセイでは感度82%、特異度100%、糞便を用いたアッセイでは感度82%、特異度76%と、検体によって精度にばらつきが見られます。
* ある研究では、健康な猫が最大70ヶ月間PCR陽性であってもFIPを発症しないケースが報告されています。また、別の報告では、コロナウイルス流行地域の家庭では猫の最大80%がPCR検査で陽性を示したとされています。
* ウイルス量との関連:ウイルス血症の存在が必ずしもFIPの発症につながるわけではありませんが、FIPに感染した猫は健康な猫よりもウイルス量が多い傾向があります。
mRNA PCR検査の検討
mRNA PCR検査は、コロナウイルスのM遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)を検出します。M遺伝子はウイルス複製時にのみ発現するため、理論的には活動性のウイルス感染を示唆する可能性があります。FIPVは末梢血の単球で複製される一方、腸管コロナウイルスは腸管で複製されます。
しかし、健康な猫25匹と臨床症状のある猫1匹を対象とした研究では、mRNA PCR検査で26匹中14匹(54%)が陽性と報告されました。この結果は、コロナウイルスが健康な猫の血液中に存在する可能性を示しており、この検査もFIPに特異的ではないことを示唆しています。
S遺伝子変異検出PCR検査
より毒性の強いFIPVのS遺伝子変異を検出するためのPCR検査も開発されていますが、偽陽性の結果が頻繁に報告されており、その診断的価値には疑問が残ります。
これらのことから、PCRアッセイはFIP診断の補助として有用ですが、単独での診断には限界があり、他の臨床所見や検査結果と総合的に判断することが重要です。

9.FIP猫伝染性腹膜炎は治りますか?治療薬はありますか?

人のコロナウイルス治療薬であるモヌルピラビルが FIP猫伝染性腹膜炎 の治療に効果が認められました
猫FIP猫伝染性腹膜炎に効果が認められた モヌルピラビル

新しく開発された人間のコロナウイルス治療薬であるモルヌピラビル治療に有効性が認められました。

当院も2022年から処方を開始し、多くの症例に効果が認められております。

「モルヌピラビル」は開発会社のメリアルは2021年から COVIX19終息の為国連と協議し、途上国での「モヌルピラビル」のライセンスを放棄しておりますので 1回の内服は500円程度、今までの治療薬に比べ安価に処方できます。

👉FIP治療薬モヌルピラビルは1回500円程度です

10.モルヌピラビルの作用機序

モルヌピラビルは、ヒトの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療するために開発された、ヌクレオシド類似体です、代謝物質です BD-N4-ヒドロキシシチジンは、コロナウイルスのグアニンからアデニン、シトシンからウラシルへのヌクレオチド遷移変異を増加させ、ウイルスを不活化します。研究では、モルヌピラビルで治療を受けた猫 24 匹中 21 匹 (88%) で臨床的寛解が達成されました。

ウイルスでのエラーカタストロフの誘導により抗ウイルス作用を示します。
図:モルヌピラビルの活性本体であるNHC-TPがウイルス由来RNA依存性RNAポリメラーゼによりウイルスRNAに取り込まれた結果、ウイルスRNAの複製エラーが増加し、ウイルスの増殖が阻害されます。(MSD社HPより転写)

11.モルヌピラビルは従来の治療薬GS-441524より効果が劣りますか

FIP猫伝染性腹膜炎治療においてモヌルピラビルは従来の治療薬GS441524と比べて非劣勢(効果は劣らない)と判断されております。

自然発症性滲出性猫感染性腹膜炎の第一選択治療薬として経口投与されるモルヌピラビルのオープンラベル臨床試験PMCID: PMC11586577 PMID: 39327677

このオープンラベルの前向き試験では、自然発症の滲出性FIPの猫に対する第一選択治療としてモヌルピラビルMPVを評価し、登録された猫10匹中8匹でモヌルピラビルMPV治療により臨床的寛解が認められました。生存しなかった猫は、治療開始後24時間以内に死亡または安楽死させられました。治療は安全であり、投薬中止を必要とする有害事象は認められませんでした。同じ登録基準を用いて、モヌルピラビルMPVをGS-441524で治療した過去の対照猫と比較したところ、モヌルピラビルMPVは16週時点での生存率および疾患寛解という主要評価項目において非劣性基準を満たしました。

流通している、未承認のGS-441524製剤(日本国内で流通しているものは全て未承認)は、品質に大きなばらつきがあることに留意する必要があります。

​87種類の注射製剤を対象とした研究では、95%の製剤が、ラベルに記載された濃度よりも多くのGS-441524を含んでいました。また、38種類の経口製剤では、43%が予想よりも多く、58%が予想よりも少ないGS-441524を含んでいると報告されています。

​GS-441524を投与された猫2匹が尿路結石を発症したという事例も報告されており、結石の分析から、結石がGS-441524で構成されていることが示されました

獣医学・医学協会著者原稿;PMCで公開:2025年4月10日 最終編集版: J Am Vet Med Assoc.

タイトル: 猫の感染性腹膜炎の在宅治療に使用される未承認の抗ウイルス製品には、広告されている量とは大幅に異なる量のGS-441524が含まれている。

PMCID: PMC11983332 

12.モヌルピラビルに副作用はありますか?

23 mg/kg を超える高用量で 12 時間ごとに経口投与した場合、折れ耳 (n=1)、折れひげ (n=1)、白血球減少症 (n=1) が報告されてますが、

治療容量での重篤な副作用報告は現時点ではありません。

18匹の猫を対象としたモヌルピラビル観察研究で報告された唯一の有害事象は、治療開始から10日以内の血清アラニントランスフェラーゼの増加(猫18匹中n=4)とビリルビンの増加でした.

自然発症した猫感染性腹膜炎の猫におけるモルヌピラビルの薬物動態

モヌルピラビル治療のモニタリング方法

治療効果を正確に評価するためには、頻繁な検査が必要です。

治療開始後は 全血球計算(CBC)と各種生化学検査を行います。

症状が改善された後も、寛解が確認できるまで2週間ごとに同様の検査を繰り返します。

FIP猫伝染性腹膜炎-モヌルピラビル治療中のSAAの変化 抄録ID03:猫の感染性腹膜炎に対するモルヌピラビル治療における治療反応、改善経過、および追跡情報ACVIM 2024
FIP猫伝染性腹膜炎-モヌルピラビル治療中のSAAの変化 抄録ID03:猫の感染性腹膜炎に対するモルヌピラビル治療における治療反応、改善経過、および追跡情報ACVIM 2024

これらの検査結果で、ヘマトクリット値の上昇A/G比の増加体重増加、および血清グロブリン値の低下タンパク電気泳動の正常化  SAA(血清アミロイドA)の正常化などが認められた場合、治療が効果的に進んでいることを示唆します。

2023年世界猫医学学会の治療UPDATE 👉2023FIP UPDATE

当院の系列病院 バステトキャットクリニックでも「モルヌピラビル」を処方しております

 クリック➡猫の病院 バステトキャットクリニック

13.FIP猫伝染性腹膜炎のワクチンはありますか?

猫腸コロナウイルスに に対しては、米国に鼻腔内投与の改変生ウイルス (MLV) ワクチンがありますが、FIPワクチンは存在しません。鼻腔投与ワクチンによる分泌型 IgA 抗体はコロナウイルスの変異株に効果を示す交叉防御能を持ちます。
このワクチンは生後16週齢以上の子猫に接種できます。しかし、ワクチンの有効性については議論が分かれています
* ある研究では、15軒のブリーダーから集められた138匹の猫を対象に調査が行われました。その結果、ほとんどの猫がFCoV抗体を持っていたにもかかわらず、ワクチン接種済みの猫と未接種の猫の間でFIPの発症率に差は見られませんでした

* 一方で、609匹の猫を対象とした別の二重盲検試験では、ワクチン接種済みの猫の方が未接種の猫よりもFIPによる死亡が少ないことが示されました

特定の状況、例えばFCoV陰性の猫がFCoVが常在する環境に入る場合などでは、このワクチンがある程度の予防効果をもたらす可能性があります。しかし、FCoV抗体陽性の猫には効果がないと考えられています。
このワクチンにはFIP猫伝染性腹膜炎ウイルスの血清型II株が含まれています。しかし、実際の感染現場で主流となっているのは血清型IのFIPウイルス株であり、血清型II株とは交差反応性を持つ中和エピトープを有していません。
ワクチン接種を受けた猫において、一部の実験的なウイルス攻撃試験では抗体依存性増強(ADE) が検出されました。

米国猫獣医師会(AAFP)諮問委員会は、コロナワクチンを一般的にペットの猫への接種は推奨していません。

私は変異が激しいコロナウイルスは注射による抗体を誘導するワクチンは効果がないだけでなく、抗体依存性増強(ADE)の危険があると考えています。現時点では、コロナウイルスに一度感染したことがある動物(人間を含め)にコロナワクチン接種はメリットが低いと考えています。

FIP猫伝染性腹膜炎関連NEWS

 

新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」製造ライセンス使用料を免除

【日本経済新聞】米製薬大手メルクは、開発中の新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」を幅広い地域で供給するため、国連の関係機関がつくった非営利団体(NPO)「医薬品特許プール(MPP)」に製造ライセンスを供与すると発表した。後発薬メーカーなどが途上国向けに安価に生産できるようになる。各国の後発薬メーカーなどは、MPPを通しライセンスを取得できる。モルヌピラビルを共同開発したメルクと米バイオ製薬リッジバック・バイオセラピューティクスは、新型コロナが世界保健機関(WHO)の「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」とされる期間中、低・中所得105カ国向けの供給を手がけるメーカーに製造ライセンス使用料を免除する

猫新型コロナ発現 地中海のキプロスでアウトブレイク

新型FIP猫伝染性腹膜炎の 遺伝子
新型FIP猫伝染性腹膜炎の 遺伝子

2022年地中海の小さな島で新型FIPのアウトブレイクが起こり数千頭の猫が発症しました。今までのFIPに比べて非常に高い死亡率と発症率で遺伝子の分析の結果新型であることがわかり、FCOV23と名付けられました。困ったことにこの新型コロナウイルス株は、キプロスからイギリスに輸入された数匹の猫からも検出されました。イギリスに輸入された猫たちが、外を歩き回って感染を広げ、より毒性の高い新たな株FCOV23が世界中の国々に伝搬しやがて日本にやってくる可能性があるのではないかと恐れています。そしてもうひとつの懸念は、キプロス政府が モヌルピラビル をキプロスのFIP猫に大量に投与していることで、コロナウイルスは非常に変異が早いウイルスですので、やがてモヌルピラビル耐性FIP株が出現することです。

猫伝染性腹膜炎に対する未規制の抗ウイルス薬の品質評価と特性評価:治療、安全性、有効性への影響

Quality assessment and characterization of unregulated antiviral drugs for feline infectious peritonitis: implications for treatment, safety, and efficacy and  PhD

アメリカ獣医学研究ジャーナル発行日: 2024 年 3 月 1 日オンラインISSN: 1943-5681

未承認のGS-441524 、GC376 、有効性は非常にばらつきがあり、中には有効成分が全く含まれたいなかったり、違う成分が混入していました。本論文では、未承認のGS-441524 、GC376を使用することで、猫に重篤な副作用を及ぼす危険を示しています。

姉妹病院名古屋の猫専門病院バステトキャットクリニックでも同様のFIP猫伝染性腹膜炎モヌルピラビル治療を行っております。

バステトキャットクリニック


猫の伝染性腹膜炎(FIP)に関する参考文献一覧

本記事は、以下の学術論文や専門家の発表を参考に執筆しました。

病態生理、疫学、診断全般

病理組織学、画像診断

抗ウイルス療法(GS-441524、レムデシビル、モルヌピラビルなど)

その他の治療法と研究

猫の肥大型心筋症

猫の膵炎

猫の乳腺腫瘍

猫のかぜ(猫風邪)

猫の甲状腺機能亢進症

猫のワクチン

 

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