ブドウ中毒
ブドウ中毒 について
ブドウ中毒 危険!たった一粒でも命に関わる!犬猫に「ブドウ」は絶対に与えないで!
犬のブドウ中毒:その一口が命取りに…犬猫にとって「ブドウ」が危険な理由
愛犬や愛猫に、あなたが食べているブドウを「少しだけなら」とあげてしまった経験はありませんか?あるいは、うっかり床に落としてしまい、愛犬が口にしてしまったことは?
**実は、ブドウは犬にとって非常に危険な毒物です。**たとえ少量でも、ブドウ中毒による急性腎不全を引き起こし、最悪の場合、命を落とす可能性のある恐ろしい食材なのです。
ブドウ中毒の原因は、果肉に含まれる**「酒石酸(しゅせきさん)」**という有機酸だとされています。この酒石酸の含有量は、ブドウの熟度によって幅があるため、たった一粒でも致死量になる危険性があります。
具体的な中毒量の目安は以下の通りです。
- 犬: 体重1kgあたりブドウ19.6g、レーズン2.8gで急性腎不全を起こす可能性があります。
- 小型犬(体重8kg以下)の場合: なんとブドウたった4粒で急性腎不全を引き起こす恐れがあります。
「少しだけなら大丈夫だろう」という考えは、愛するペットの命を危険に晒すことになります。ブドウは、一粒たりとも絶対に愛犬に与えないでください。
もし愛犬がブドウを食べてしまったら…
万が一、愛犬や愛猫がブドウやレーズンを口にしてしまったことに気づいたら、すぐに動物病院へ連絡し、指示を仰いでください。
中毒症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 嘔吐、下痢
- 食欲不振
- 元気がない、ぐったりしている
- 脱水
- 腹痛
- 尿量が減る、または尿が出なくなる(急性腎不全の兆候)
これらの症状は、ブドウ摂取後すぐに出ることもあれば、数時間~数日経ってから現れることもあります。**症状が出ていなくても、食べたことが分かった時点で一刻も早く動物病院を受診することが重要です。**早期に適切な処置を行うことで、中毒の進行を食い止め、命を救える可能性が高まります。
愛するペットを守るために、日頃からできること
愛犬や愛猫をブドウ中毒から守るためには、飼い主さんの意識と注意が何よりも大切です。
- ブドウやレーズンは、ペットの届かない場所に厳重に保管しましょう。
- ブドウを使った食品(パン、ケーキ、ジュースなど)も危険です。与えないように注意してください。
- 食卓にブドウを置く際は、ペットが誤って口にしないよう目を離さないようにしましょう。
- お子さんがいるご家庭では、ブドウをペットに与えてしまわないよう、お子さんにも危険性を伝えてください。
大切な家族である愛犬や愛猫が、誤って危険なものを口にしてしまわないよう、日頃から細心の注意を払いましょう。もし「食べてしまったかも?」と少しでも疑いがある場合は、迷わず当院へご相談ください。
目次
ブドウ中毒の原因は何ですか
ブドウ中毒の原因の酒石酸とは
猫のブドウ中毒
犬種、年齢、性別によるブドウ中毒の違い
ブドウ中毒になるブドウの量
ブドウジュースは中毒をおこしますか
ブドウ中毒の症状
ブドウ中毒の治療法

ブドウやレーズンで犬猫がブドウ中毒をおこす事実が認知されたのはまだ最近のことです。
1999年頃から米国動物毒物管理センターが、ブドウを食べた後の犬猫の体調不良に気づきはじめ、
2001年にブドウを食べた犬が重度の腎不全を発症した症例が初めて学会報告されました。
ブドウ中毒の原因は何ですか
ブドウ中毒の原因物質は、ブドウの種子ではなく、ブドウ、レーズンの果肉内にある水溶性の酒石酸と特定されており(Wegenast et al 2022)あらゆる種類のブドウが有毒である可能性があります。
参考文献:2021 年 10 月に開催された第 64 回アメリカ獣医臨床検査診断士協会 (AAVLD) 年次総会で発表されました。
ブドウ中毒の原因の酒石酸とは
ブドウ中毒の原因でる酒石酸は、植物に含まれる有機酸です。ブドウとタマリンドの濃度が最も高く、酒石酸の量は果物の品種、生育条件、環境によって異なり、タマリンドの果肉には 8 ~ 18% の酒石酸が含まれており、ブドウには 2% も含まれる場合があります、サクランボには0.008%、ラズベリーには0.009%の酒石酸が含まれています。
酒石酸の吸収、除去、毒性には動物種に差があり、犬は特に有機酸を排泄する能力が低く、有機酸に対して独特の感受性を持っています。酒石酸が腎臓の尿細管壊死を引き起こす正確なメカニズムは不明ですが 他の有機酸(マレイン酸)は、犬に同様の腎障害を引き起こし、NaK-ATPase 活性を選択的に阻害したり、近位尿細管内の ATP を枯渇させたりすることが解っていますので、酒石酸の毒性も同様のメカニズムで犬の腎臓に尿細管壊死をおこすと考えられています。
猫のブドウ中毒
猫はぶどうを好んで食べないので、症例はほとんど報告されていません。 13 匹の猫に関する報告では、2 匹の猫に症状が見られ、1匹の猫は 12 時間食欲不振になり、もう 1 匹は摂取後 2 時間でレーズンを吐きました。猫もブドウを食べれば犬と同じようにブドウ中毒を起こします。フェレットでもブドウ中毒が報告されてます。鳥はブドウ中毒をおこさないようです。
犬種。年齢、性別によるブドウ中毒の違い
犬種による違いは報告されていませんが 3 つの研究ではラブラドール レトリバーの中毒が最も多く報告されていますが、ラブラドールレトリバーがぶどう中毒をおこしやすいという証拠はありません。1つの研究では罹患犬の 48% が 2 歳未満でした。別の研究では、平均年齢は 4 歳 (範囲 0.25~15 歳) でした。犬の性別による違いは報告されていません。
ブドウ中毒になるブドウの量
ブドウ中毒の原因物質である酒石酸の含有量はぶどうの熟度によって変化するため、ぶどう中毒を引き起こす正確なぶどうの量は不明ですが、実験では、ぶどうは体重1Kに19.6g レーズンは体重1Kに3gで中毒をおこしました。これ以下の量でもブドウ中毒になる場合もあります。
ブドウジュースはブドウ中毒をおこしますか
現時点では、米国動物毒物管理センターに、ブドウジュース、ぶどうゼリー、ぶどうの葉、ブドウ種子油、ワインによるブドウ中毒の報告はありませんし、ブドウジュースで中毒をおこしたという論文も発表されていません。
なぜブドウジュースではブドウ中毒をおこさないのでしょうか
ブドウを加工して販売されている、ブドウジュース、ジャム ワイン等は加工過程で酒石酸が除去されている可能性があります。
ブドウジュースで中毒をおこさない原因として以下の3点が考えられます
1 ブドウが熟することで酒石酸の減少する
2 加熱によって酒石酸が減少する
3 熟成過程で酒石酸が沈殿結晶化する、等が考えられます、
但し製品によっては酒石酸が完全に除去されてない可能性もあります。製品によって毒性は不明ですので与えないようにしましょう。
〇ブドウの種 ブドウの種オイルには酒石酸が含まれていないので、現時点では安全とされてます。

ブドウ中毒の症状
急性腎不全
を患っている犬の腎臓-300x191.png)
約 50 ~ 88% の犬は、ブドウ レーズンを摂取した後にすぐには何の症状も示しません。
摂取が判明している95頭の犬を対象としたオランダの研究では、症状を発現したのは14頭(14.7%)でした。
ブドウやレーズンを摂取した動物の約 15% が嘔吐、食欲不振、などの症状をだします。
多くはブドウ摂取直後に嘔吐しますので、犬がブドウを嘔吐してくれれば、急性腎不全の発生率は減少します。
イギリスの救急病院に運ばれた606頭の犬の研究では、食べてからから処置までの時間が増加するにつれて、臨床症状(嘔吐、下痢、嗜眠、腹部膨満)増加しました。(Croft et al 2021)。摂取後 12 時間以上経過した 38 頭の犬のうち、25 頭 (66%) に中毒症状が見られました。神経学的異常(例、震え、振戦、発作、運動失調、前庭および小脳の兆候)発生しています。病理組織学的には、近位腎尿細管変性および壊死が最も一般的な所見です。腎皮質尿細管の石灰化も観察される場合があります。139頭の犬を対象とした研究では、6.7%で急性腎不全が発症し、138 頭の犬が生き残り、1 頭の犬が死亡しました。
食べてから治療開始までの時間がかかった症例ほど重度になりますので、出来るだけ早く治療を開始してください
米国動物毒物管理センターサイト☛ASPCA 動物毒物管理センター
ブドウ中毒の治療法
まずは嘔吐させてください。
研究では、ぶどう摂取後 4 時間以内に嘔吐させた場合、ブドウ果実の除去に 98% の犬が成功し、
摂取後 4~12 時間で嘔吐を誘発した場合、83% の犬が成功しました
治療のまとめ
1ブドウ中毒に対する解毒剤は確認されていません。
2ブドウを食べてしまったら、すぐに動物病院で吐かせてもらってください。
3ブドウやレーズンを摂取した動物の約15%が自ら嘔吐します
4研究ではブドウ摂取後 4 時間以内に嘔吐した場合は 98% の犬が回復しました、
5嘔吐させた後、活性炭を投与し毒性物質である酒酢酸を吸着させます。
6さらに点滴治療で維持量の2倍で利尿(おしっこを作らせる)させ3日間は腎臓に損傷がおきないかモニターします。
3 日経過して腎臓に損傷がなければ予後は良好です。
ブドウを食べてしまったら 早期に嘔吐させて、点滴治療を開始することが重要
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犬のブドウ・レーズン中毒に関する参考文献一覧
本記事は、以下の学術論文や専門家の発表を参考に執筆しました。
【ブドウ・レーズン中毒の疫学と病態】
- Sutton, N.M., Bates, N., Campbell, A. (2009). 犬におけるVitis vinifera(ブドウ、レーズン、カラント、サルタナレーズン)中毒の転帰に影響を与える要因. Vet Rec. 164(14):430-31.
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【ブドウ・レーズン中毒の診断と治療】
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【専門家の発表とその他】
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- Lee, J.A. (2020). 犬の毒素トップ10(SA362). 西部獣医学会議議事録.
- Campbell, A., Bates, N. (2003). 犬のレーズン中毒. Vet Rec. 152(12):376.
- Martineau, A.S., Leray, V., Lepoudere, V., et al. (2016). ブドウとブルーベリーの混合エキスは犬が摂取しても安全である. BMC Vet Res. 12(1):162.
- Yoon, S., Byun, J., Kim, M., et al. (2011). 2匹の犬におけるブドウ中毒の自然発生. J Vet Med Sci. 73(2):275-77.
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