こざわ犬猫病院

ユリ中毒

ユリ中毒 について

猫はユリに含まれるステロイド性グリコアルカロイドでユリ中毒をおこします。

ユリはミトコンドリアの機能と細胞のエネルギー生成を妨害し。近位尿細管細胞の変性、壊死による急性腎不全、膵腺房細胞の変性を発症します。
猫が少しでもユリを食べたら。直ぐに積極的な輸液療法を開始する必要があります。
ユリのすべての部分が有毒ですが、花が最も有毒です。
花粉や花瓶の水にわずかに食べた場合でもユリ中毒をおこします。
猫が複数のユリの花を食べると、数時間以内に死に至ります。臨床症状の発現が早いことから、毒素の吸収速度が速いと考えられており、ユリを食べた場合は後 直ちに吐かせ、毒素吸着剤を投与し積極的な輸液療法を開始する必要があります。
猫はユリが好きで自分で探して食べてしまいますので、猫の生活域には絶対に置かないでください。

2005年から2014年にかけて米国の動物中毒管理センターに報告された猫における最多かった毒素曝露は、ユリ属植物でした。

目次

中毒を起すユリ属は?

犬はユリ中毒をおこしますか?

ユリ中毒の原因

ユリ中毒の致死量

ユリ中毒の症状

ユリ中毒の治療

ユリ中毒の死亡率

猫のユリ中毒を防ぐにはどうすればよいでしょうか?

参考文献

猫に有害なテッポウユリ 。猫はユリのどの部位を食べても死に至ります。猫の生活環境にはユリを置かないでください
猫にユリ中毒をおこすテッポウユリ

中毒を起すユリ属は?

猫に中毒を引き起こすユリ属について
ユリ科には160を超える属がありますが、猫に中毒症状を引き起こすのは、**ユリ属(Lilium)とヘメロカリス属(Hemerocallis)**に属する植物に限られます。
中毒を引き起こす主なユリ属とヘメロカリス属の例を以下に示します。
ヘメロカリス属 (Hemerocallis)
* H. dumortierei
* H. fulva(ニッコウキスゲ)
* H. graminea(オレンジ色のニッコウキスゲ)
* H. sieboldii(初期のニッコウキスゲ)
ユリ属 (Lilium)
* L. asiatic(アジアティック・ハイブリッド・リリー)
* L. elegans(アジアティック・ハイブリッド・リリーの一種)
* L. lancifolium(オニユリ)
* L. longiflorum(テッポウユリ)
* L. orientalis(スターゲイザーユリなどオリエンタル・ハイブリッド・リリー)
* L. speciosum(カノコユリ)
* L. speciosum var. rubrum(ルブルムユリ)
* L. umbellatum(アカユリ、西洋ユリ、ウッドユリ)
国動物毒物管理センターサイト☛ASPCA 動物毒物管理センター
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犬はユリ中毒をおこしますか

ネコ亜目以外の動物では、中毒の報告はありません

日本の動物園でミーアキャットのユリ中毒の報告がありますので、
ネコ亜目に限定した中毒のようです。
ミーアキャット ( Suricata suricatta ) のユリ中毒症の疑い: 症例報告

ユリ中毒の原因

ユリに含まれるステロイド性グリコアルカロイドが、近位尿細管細胞の変性や壊死、そして膵腺房細胞の変性を示すことが報告されています。壊死した尿細管上皮細胞が尿細管腔内に脱落すると、尿の量が減る**乏尿**や、全く尿が出ない**無尿**を引き起こすこします。
細胞レベルで見ると、ユリの毒素はミトコンドリアを標的にし、その機能と細胞のエネルギー生産を妨げると考えられています。
腎臓の障害に加えて、ユリ中毒症の猫では発作をおこします。これらの発作は、尿毒症性脳症や高血圧性脳症とは関連がないようです。また、肝臓の変化も見られます。

ユリ中毒の致死量

すべての部分が有毒ですが、花が最も有毒です。
猫がユリにわずかに曝露した場合でも危険です。猫はユリの花を複数摂取すると、
12 ~ 36 時間以内に急性腎不全を引き起こし、3 ~ 5 日以内に死亡します。
ユリの花粉への曝露やユリの花瓶の水を摂取した後の腎損傷も報告されています。
猫は、ユリに惹かれるようで、植物や花が一見近づきにくい場所に置かれている場合でも、
自分で積極的にユリを探し求めているようです。

ユリ中毒の症状

ユリ中毒の身体検査所見
中毒の一般的な初期症状は、曝露後2時間以内に現れることが多く、嘔吐、抑うつ(元気がない)、無気力、食欲不振などが挙げられます。これらの症状は一時的に治まることがありますが、腎臓の障害が進行するにつれて、12〜24時間以内によく再発します。
その他の所見としては、以下のようなものが挙げられます。
* 腹痛
* 無飲(水を飲まないこと)
* 流涎過多(よだれが多いこと)
* 運動失調
* 振戦(ふるえ)
* 横臥(横になったまま起き上がらないこと)
* 発声(異常な鳴き声など)
* 脱力
* 多飲(水をたくさん飲むこと)
* 多尿(おしっこがたくさん出ること)
* 乏尿(おしっこが少ないこと)
* 無尿(おしっこが出ないこと)
* 発作
症状が一時的に治まる場合もありますが、腎障害が進行すると

検査所見
血液検査所見:高窒素血症、高カリウム血症、高リン酸血症。
X線検査で腎臓が拡大して見える場合があります。
尿毒症に続発して肺水腫が認められることもあります。
超音波検査:腎肥大、腎周囲浮腫や空洞滲出液が認められる場合もあります。

ユリ中毒の治療

早期かつ積極的な介入は生存に不可欠です。猫がすでに中毒症の兆候を示している場合は、入院が必要です。治療の目的は、生命を脅かす臨床徴候の管理、腎障害の予防または治療、そして消化管からの毒素吸収の減少です。積極的な治療が生存のために非常に重要です。

嘔吐誘発処置;ユリを嘔吐していない時は、嘔吐を誘発させますが、半数の猫しか嘔吐しません

活性炭の投与:活性炭  は、嘔吐誘発後、または嘔吐しなかった場合 毒素 の吸着剤として投与します。

腎不全の予防/管理
腎臓を保護するために輸液をしますが。すでに症状が出ている場合は、皮下輸液投与だけでは不十分ですので、入院して静脈輸液を行います。

嘔吐が長引く場合

制吐剤を投与します。マロピタント  24時間ごと オンダンセトロン   6-12時間ごと。

保護剤と制酸剤を投与

スクラルファートは、猫1匹あたり250mgを経口で8~12時間ごとに投与します。制酸剤は消化管粘膜の治癒を促進します。

プロトンポンプ阻害薬は最も効果的です、オメプラゾール(0.5~1mg/kg、経口、24時間ごと)

ユリ中毒のモニタリング
ユリ中毒の猫の治療中は、以下の点を注意深くモニタリングすることが不可欠です。
* 水分バランスの管理:
* 静脈内輸液の投与速度を適切に調整
* 腎機能と電解質バランスの評価:
* 血清中の腎パラメータ(BUN、クレアチニン、カルシウム、リン、カリウムなど)を定期的に測定します。
* 48〜72時間経過しても、腎不全を示す臨床症状や検査所見が見られない場合は、静脈内輸液の投与を中止し、集中治療から一般入院に切り替えます。

猫のユリ中毒の死亡率は?

2004 年の研究では、猫のユリ中毒の死亡率が 50 ~ 100% であると報告されました。
摂取後 18 時間以内に積極的な輸液療法を開始すると、死亡率は下がり、治療が 遅れると、重篤な予後をもたらすします。

治療と予後の関係
一般的に、早期に積極的な解毒と静脈内輸液による治療を受けた猫は予後が良好です。一方で、治療が遅れたり、すでに腎不全の兆候が見られる猫は、予後が悪い傾向にあります。
腎不全の兆候が見られても十分な尿が産生されている猫は、数週間かけて尿細管が再生する可能性があります。しかし、重度の乏尿または無尿の猫は、透析や腎移植を行わない場合、予後が非常に厳しいものとなります。

2013年発表のユリ中毒25匹を調べた論文では、早期の積極的治療で全頭回復しています。
ユリの摂取が知られている猫における胃腸管の除染と静脈内輸液利尿後の転帰: 25 例 (2001 ~ 2010 年)

猫のユリ中毒を防ぐにはどうすればよいでしょうか?

ユリ中毒を防ぐ最善の方法は、猫をユリから遠ざけることです。
猫を飼っている方はユリを家に持ち込まないでください 。
外に出入りできる猫を飼っている場合は、庭にユリを植えないでください。

早期の治療が重要です。直ぐに病院に連絡してください。

名古屋夜間救急動物病院 こざわ犬猫病院☛アクセス

国動物毒物管理センターサイト☛ASPCA 動物毒物管理センター

参考文献
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