犬のワクチン
犬のワクチン について
知っておきたい犬のワクチン接種スケジュールと副反応について
いつからお散歩デビューできる?愛犬のワクチン接種スケジュールと注意点
「早く元気な愛犬と散歩に行きたい!」そう願う飼い主さんは多いでしょう。しかし、犬のワクチン接種は、愛犬を危険な感染症から守るために非常に重要です。
目次【獣医師が解説】
子犬のお散歩デビューはいつから?
1.犬のワクチン接種スケジュールと、接種前に知っておくべきこと
2.Q. なぜ子犬のワクチンは複数回必要なの?
3.Q. 犬のワクチン副反応にはどんなものがある?
4.Q. 飼っている犬種は副反応が出やすい?
5.Q. 去年は大丈夫だったのに、今年は副反応が出ることはある?
子犬のお散歩デビューはいつから?
1.犬のワクチン接種スケジュールと、接種前に知っておくべきこと
元気いっぱいの愛犬と、早くお散歩に行きたい!他のワンちゃんとも交流させたい!そう願う飼い主さんは多いはずです。しかし、子犬のワクチン接種は、愛犬の健康を守る上で非常に重要です。
当院では、愛犬を様々な感染症から守るため、以下のスケジュールで犬のワクチン接種をおすすめしています。
- 生後2ヶ月: 5種混合ワクチン
- 生後3ヶ月: 7種混合ワクチン
- 生後4ヶ月: 7種混合ワクチン
その後は、1歳以降、毎年7種混合ワクチンを接種していきます。
【重要】お散歩やトリミングデビューは、3回目の犬のワクチン接種から2週間後以降にしてください。ワクチンによる十分な免疫がつくまでに時間がかかるため、この期間は人混みや他の犬との接触を避け、感染症から愛犬を守りましょう。
2 Q. なぜ子犬のワクチンは複数回必要なの?
子犬に早期ワクチン接種をしても、母体由来抗体(MDA)によって効果が妨げられるからです
母体由来抗体(MDA)によるワクチン接種の妨害
出典:犬と猫のワクチン接種に関する2024年ガイドライン – 世界小動物獣医師会
図は、子犬や子猫に早期ワクチン接種をしても、母体由来抗体(MDA)によって効果が妨げられる仕組みを示しています。このグラフは、子犬の週齢と犬パルボウイルスに対する血清抗体(Ab)濃度をプロットしたものです。この子犬は生後すぐに初乳から大量のMDA(赤線)を獲得しましたが、MDAは半減期約9〜10日で徐々に減少していきます。獣医師は生後6週齢から複数回ワクチンを接種(注射器アイコン)しましたが、MDAがワクチンを中和してしまったため、この子犬は免疫を獲得できませんでした。生後8週齢でMDA濃度が犬パルボウイルス感染を防ぐレベル(青い破線)を下回ると、パルボウイルス腸炎にかかりやすくなります。しかし、この時点ではまだMDAレベルがワクチンの効果を妨げるほど高かったため、ワクチン接種による免疫獲得はできませんでした。約13.5週齢になると、MDAレベルが十分に低下し、ワクチン接種による能動免疫の獲得が可能になりました。そして、16週齢で再びワクチン接種を受けると、子犬は自身の免疫反応(青線)を示すようになりました。ピンク色の点線で囲まれた部分は、子犬がパルボウイルス感染症にかかりやすい「感受性のウィンドウ(期間)」です。この期間をできるだけ短くするために、子犬や子猫には2〜4週間ごとに複数回のワクチン接種が推奨されます。
3.Q. 犬のワクチン副反応にはどんなものがある?
ワクチン接種は愛犬の健康を守るために不可欠ですが、ごく稀に副反応が起こることがあります。「うちの子は大丈夫かな?」と心配な飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。
ワクチンの副反応は、主にワクチンに含まれる特定の成分が原因で起こると考えられています。これらの成分はアレルギー反応だけでなく、甲状腺機能低下症などの免疫疾患を引き起こす可能性も指摘されています。(J. キャサリン・スコット・モンクリーフ氏らの研究による)
そこで当院では、愛犬により安全なワクチンを提供するため、使用するワクチンに徹底的にこだわっています。
当院で使用しているワクチンは、国内で販売されている製品の中で牛血清アルブミン(BSA)の含有量が最も低いワクチンです。
- 水銀: 不使用
- アルミニウム: 不使用
- 牛血清アルブミン(BSA): 国内最低量
大切なご家族である愛犬が、安心してワクチン接種を受けられるよう、私たちはワクチンの成分にも細心の注意を払っています
4.Q. 飼っている犬種は副反応が出やすい?
犬種による犬のワクチン副反応の違い
犬のワクチン接種は、愛犬の生涯にわたる健康を守るための大切なステップです。副反応のリスクを最小限に抑え、最大限の免疫力をつけるために、ご不明な点やご不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
特に以下の犬種は、副反応の発生率が高いことが報告されています。
- ダックスフント、パグ、ボストン・テリア、ミニチュア・ピンシャー、チワワ

中でも、フレンチブルドッグとダックスフントは、他の犬種に比べて4倍以上も副反応の発生率が高くなります。
犬ワクチン注射に含まれるBSAが甲状腺機能低下症の原因の可能性。

甲状腺機能低下症の原因サイログロブリン抗体 (Ab) が犬のワクチンに含まれるBSA牛血清アルブミンの疑いがありますので、BSAが可能な限り少ないワクチンが望ましいです。
当院では、国内で現在販売されている犬の混合ワクチンの中でBSA量が最も低い犬用/混合ワクチンを接種しております。
ペット犬および研究犬における定期ワクチン接種後の抗サイログロブリン抗体の評価 J. キャサリン・スコット・モンクリーフ 獣医 MB、MS、DACVIM
5.Q. 去年は大丈夫だったのに、今年は副反応が出ることはある?
「昨年のワクチン後は何もなく元気だったから、今年も大丈夫だろう」と考える飼い主さんは少なくありません。しかし、それは大きな間違いです。

実は、犬のワクチンの副反応は接種回数が増える度に、年々高くなる傾向があります。昨年問題がなかったとしても、今年の接種後に重大な副反応が起こる可能性は十分にあります。
犬のワクチン接種後は、愛犬・愛猫を安静にさせ、激しい運動やトリミングは避けてください。 万が一に備え、接種後の様子を注意深く観察しましょう。
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犬のワクチンに関する参考文献一覧
本記事は、以下の学術論文や専門家の発表を参考に執筆しました。
【犬の免疫介在性疾患とワクチン接種の関連性】
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【ワクチン副反応に関する大規模調査と研究】
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【専門家の発表・その他】
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- Moore, G. (2003). ワクチン反応の今日と明日:ワクチンが過剰に作用した場合. ACVIM.