こざわ犬猫病院

猫の膵炎

猫の膵炎 について

猫の膵炎の病因は、(95%)原因不明で、はっきりとした症状をだしません。一般的な症状は、無気力、食欲不振、体重減少などがあります。他に嘔吐や腹痛、下痢、黄疸、脱水、多飲、多尿などがあります。

カリフォルニア大学デービス校の研究では、他の疾病で死後解剖された 115 匹の猫のうち、60% に慢性膵炎の兆候が見られ、16% に急性膵炎の兆候が見られました。猫の膵炎は非常に一般的な病気で、健康に見える猫も膵炎の可能性があり、診断されていない猫が非常に多い病気です、血液検査で診断が可能ですので、疑わしい猫ちゃんは診断を受けましょう。
出展:猫の膵炎に関する米国獣医内科学学会ACVIMの合意声明

膵臓は、胃のすぐ下にある淡いピンク色の組織です。
膵臓には、食物を分解するために必要な消化酵素の産生と、代謝を調節するインシュリン等のホルモンの生成という 2 つの役目があります。膵臓の消化酵素は非常に強力で、私たちが摂取した脂肪やタンパク質をすぐに分解し、体内に吸収できるようにしています。
消化酵素は、特別な膵臓という袋の中で作られ、保存されるため、私たちの体を傷つけることはありません。消化酵素は、特別な管  を通って放出され、腸に運ばれ、そこで食べた食物に作用します。消化酵素は、腸に到達して胃から出てくる酸性の食物と出会うまで活性化されません。
膵炎になるとこれらの酵素が、もれだし活性化し、体を消化してしまいます。
自分の体を消化し、体組織はさらに炎症を起こし、となりの肝臓にまで及びます。この組織破壊の暴走 によって放出された毒素が循環に放出され、さらに全身の炎症反応を引き起こします。
膵炎になると、インスリン産生能力が阻害され、糖尿病や外分泌膵機能不全 (EPI)を発症する可能性もあります。(膵臓の80%が損傷し、インスリンが生成できなくなると、糖尿病になります)

目次

猫の膵炎の原因

猫の膵炎の診断

猫の膵炎の臨床症状

猫の膵炎の治療と管理

猫の膵炎の予後

猫の膵炎のまとめ

猫の膵炎の原因

猫の膵炎はほとんどの場合(95%)が原因不明です
慢性膵炎は、自己免疫が原因である場合があり、再発することが多いです。
炎症性性腸疾患 (IBD)や胆道疾患も慢性膵炎発症の危険因子です。
嘔吐は十二指腸内圧を上昇し、腸の内容物が膵管への逆流し膵炎を起こすことがあります
猫は犬よりも十二指腸に細菌が多く、十二指腸乳頭には膵液と胆汁の流出のための共通の経路があり犬より膵炎をこしやすいです。

猫の慢性膵炎
猫の慢性膵炎
猫の膵炎 図
猫の膵炎 模式図

猫の膵炎の診断

猫膵リパーゼ免疫反応性(fPLI)検査:猫の膵炎を診断するための最も感度と特異度の高い検査です。膵炎の兆候がみられる21匹の猫と8匹の健康な猫を対象とした研究では、特異度は100%、中等度から重度の膵炎の場合のfPLIの感度は100%でした。fPLIは、重度の症例で高くなります
SAA検査:研究では急性膵炎の48匹の猫のうち44匹の猫(92%)で基準範囲(RI; 0~6 mg/L)を超え、65%と35%でそれぞれ基準上限値の3倍と10倍を超えていました。

猫の膵炎の症状

膵炎の猫の症状は微妙ではっきりとしません。一般的な症状には、無気力、食欲不振、体重減少などがあります。急性膵炎の猫は、嘔吐、下痢、黄疸、脱水、多飲、多尿などがあります。人間や犬の膵炎では殆どの症例で嘔吐しますが、最近の研究では猫の膵炎で嘔吐の症状はわずか35%でした。重度の膵炎を患う患者は、ショック状態になります。
膵炎の猫 157 匹を対象とした研究では、34% が慢性腎臓病、26.8% が急性腎不全 、14.1% が心疾患、13.4% が糖尿病、12.1% が肝脂質症でした

猫の膵炎 治療と管理

猫の膵炎に対する特別な治療法はなく、治療は支持療法になります。治療の目標は、膵臓の組織灌流を維持し回復すること、細菌の移行を制限すること、代謝および電解質の異常を修正すること、併発疾患に対する適切な治療をすることです。
輸液療法:
脱水症状の是正、電解質の不均衡の是正、補充、水分の維持必要量 (60 mL/kg/日) の供給、および膵臓のさらなる損傷からの保護を目的として輸液療法を実施します。
正常血液量を確立することで、膵臓灌流と膵臓組織への酸素供給が改善し、膵臓組織の損傷が制限されます。皮下輸液療法で十分な場合もありますが、重度の場合は入院と静脈内療法が必要になります。
鎮痛:
猫は痛みを隠します、膵炎の25%の猫しか痛みを示しませんが、鎮痛療法は、明らかな痛みの兆候を示していない場合でも、効果があります、積極的に痛み止めを使用してあげましょう。
抗生物質:
アメリカ獣医内科学会の猫の膵炎に関する合意声明では、急性膵炎の多くは無菌性で、合併症のない症例では抗生物質は不要であると述べられていますが、研究では、中等度から重度の膵炎を患う猫の 35% (11/31) 膵臓の細菌感染が見られており、血液 検査結果が敗血症を示唆する場合にも使用します。
ビタミンB12:
健康な膵臓は、食事からビタミン B12 (コバラミン) を吸収するために必要な内因子と呼ばれる物質を生成します。膵炎の膵臓は十分な内因子を生成せず、膵炎が慢性化すると欠乏症が起こり、ビタミン B12 欠乏症が起こります。その結果、猫は不健康になり、貧血になることもよくあります。食事中のビタミン B12 は内因子なしでは吸収できないため、定期的に注射でビタミンB12 を与える必要があります。ビタミン B12 のレベルを検査して、投与が必要か判断することもできます。
抗炎症/免疫抑制療法:
猫は慢性膵炎になりやすく、慢性膵炎の猫にはステロイド、シクロスポリ、その他の抗炎症薬または免疫抑制薬が使用されます。人間の慢性膵炎にはステロイドが有効なことが解っています、猫も同じように慢性膵炎の治療にステロイドの有効性が確認されています。
日本で開発された新しい犬用膵炎の治療薬フザプラジブナトリウムが猫にも効果が認められています。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202202251680191854
https://www.zenoaq.com/products/product_pht/8829f55ca395e0c9507ed207b9777ea594aac89f.pdf
栄養療法:
肝脂肪症などの食欲不振による合併症を避けるためにできるだけ早く食事を開始します。

昔は膵炎の猫は絶食させていましたが、食事をとらせれことで消化管全体の治癒が促進されるので、積極的に食事を与えてあげてください。
食欲刺激:
食欲刺激剤の投与は、食事摂取量を回復させるのに効果的です。
ミルタザピン。カプロモレリンを食欲刺激剤として投与します。
ミルタザピン説明動画↓

猫の膵炎の予後

急性膵炎の猫の死亡率は 9~41% です。
低血糖、低カルシウム血症、高窒素血症、白血球減少症は、予後不良の指標となります。
血清 fPLI が高値を示した場合も予後よくありません。

猫の膵炎 治療のまとめ

①適切な膵臓灌流を維持または回復するために、点滴、輸液を行う

②痛みを表現していなくても、積極的に鎮痛剤を投与する。

③細菌の増殖を制限するために抗生剤を投与する。

④炎症メディエーター阻害するために、抗炎症剤を投与する。

⑤ビタミンB12及び 栄養補給を行う

⑥積極的に食事を与える

 

 

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