犬と猫のうっ血性心不全
犬と猫のうっ血性心不全 について
うっ血性心不全(CHF) は、重度の心臓病によって体内に水分が溜まってしまう状態(臨床症候群)です。犬や猫の場合、心臓のどの部分に問題があるかによって、体液が溜まる場所が異なります。
- 心臓の左側に問題がある場合(僧帽弁疾患、拡張型心筋症、肥大型心筋症、先天性心疾患など):主に肺や、肺の周りの胸腔(胸水)に体液が溜まります。
- 心臓の右側に問題がある場合:主に腹部(腹水)や、肺の周りの胸腔(胸水)に体液が溜まります。
うっ血性心不全はなぜ起こるのでしょうか?
うっ血性心不全は、病気になっている心臓の側へ血液を運ぶ静脈や毛細血管の圧力が異常に高まることで発生します。この高い圧力によって、血管から水分が漏れ出し、周囲の組織に溜まってしまうのです。
- 心臓の左側に問題がある場合:肺から心臓へ血液を送る血管(肺静脈や肺毛細血管)の圧力が上がり、水分が肺に漏れ出すため、肺水腫や胸水が起こります。
- 心臓の右側に問題がある場合:体から心臓へ血液を送る血管の圧力が上がり、水分が腹部に漏れ出すことで腹水が生じたり、足や体のお腹側の皮膚にむくみ(浮腫) が見られたりします。
うっ血性心不全の主な原因
うっ血性心不全は、安静時の心臓の圧力(拡張期心圧)を上げてしまう、次のような重度の心臓病が原因で起こります。
- 弁膜症:心臓の弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまう病気(例:僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症)。
- 心筋症:心臓の筋肉自体に異常が起こる病気。
- 心膜疾患:心臓を包む膜(心膜)の病気で、心臓が正常に拡張したり収縮したりするのを妨げるため、右心系のうっ血性心不全を引き起こすことがあります。
- フィラリア症:寄生虫による病気で、右心系のうっ血性心不全の原因となることがあります。
うっ血性心不全の診断方法
うっ血性心不全の診断には、いくつかの検査を組み合わせて行います。
- 胸部X線検査:
- 心臓の肥大(重度の心臓病の兆候)があるかを確認します。
- 肺の濁り(肺水腫の可能性)や、胸腔内の液体貯留(胸水)があるかを確認します。
- 心臓超音波検査(心エコー検査):心臓の構造や動きを詳しく調べ、心臓病の具体的な種類や重症度を評価します。
- 血液検査:心臓病以外の問題が起きていないか、全身の状態を把握するために行います。
うっ血性心不全の治療法
治療は、根本にある心臓病と、体液の貯留を抑えることの両方に焦点を当てて行われます。
- 利尿薬の使用:左心系のうっ血性心不全の治療では、主にフロセミドなどの利尿薬が使われます。利尿薬は体内の水分量を減らすことで、静脈の圧力を下げ、肺や腹部への水分漏出を抑えます。
- その他の薬剤:ピモベンタン(心臓の働きを助ける薬)、サイアザイド系利尿薬、スピロノラクトン(別の種類の利尿薬)などが、状況に応じて使用されます。
家庭でのうっ血性心不全のモニタリング
家庭でのうっ血性心不全の管理:最も重要な呼吸数チェック
ご家庭でうっ血性心不全の犬・猫の容態を把握する上で、呼吸数のチェックは非常に重要です。
特に、**安静時(寝ている間などリラックスしている時)の呼吸数を数えることをお勧めします。**以下の「犬と猫の安静時呼吸数」を参考に、ご自身のペットの正常範囲を把握しておきましょう。 犬と猫の安静時呼吸数 – こざわ犬猫病院
安静時呼吸数が正常範囲内であれば、うっ血性心不全が適切に管理されている可能性が高いと考えられます。
もし、**寝ている間の呼吸数が増え始めた場合は、心不全が悪化しているサインの可能性があります。**治療の調整が必要になる場合がありますので、すぐにご相談ください。
予後(病気の今後の見通し)
うっ血性心不全の予後は、その原因となる心臓病の種類によって多少異なります。
- 犬の僧帽弁閉鎖不全症や猫の肥大型心筋症など、より一般的な心臓病が原因でうっ血性心不全と診断され、治療が開始された場合、生存期間は通常2年未満とされています。
- 犬の僧帽弁閉鎖不全症では、約50%の犬が8〜10ヶ月以内に亡くなり、18〜24ヶ月以上生きられる犬はわずか20%程度と言われています。
- 猫の肥大型心筋症では、50%の猫が7〜10ヶ月以内に亡くなるという報告があります。