こざわ犬猫病院

犬の乳頭腫(イボ)

犬の乳頭腫(イボ) について

最終更新日 : 2026年2月14日

ワンちゃんのイボ(乳頭腫)、あきらめないで!

新しい選択肢「アジスロマイシン」による内科的治療

愛犬の口の周りや体に、突如として現れる「カリフラワー状のイボ」。これは多くの場合、**犬乳頭腫ウイルス(CPV)**が原因で起こる「乳頭腫」です。

「手術で切り取るしかないの?」「自然に治るのを待つしかないの?」と不安に思う飼い主様へ、近年注目されているアジスロマイシンという抗生物質を使った治療法をご紹介します。

比較項目 従来の経過観察 外科手術(切除) アジスロマイシン治療
完治までの期間 不明 即日(術後ケアが必要) 約10日〜3週間
体への負担 低い(放置) 高い(全身麻酔・切開) 極めて低い(投薬のみ)
通院回数 経過確認のみ 手術・抜糸など数回 診察・処方のみ
費用面 高額(麻酔・手術代) お薬代のみ


1. 犬の乳頭腫とは?

若齢犬に多い「口内乳頭腫」や、老犬にも見られる「皮膚乳頭腫」などがあります。見た目が痛々しく、場所によっては出血や食欲低下を招くこともありますが、その正体はウイルス性の良性腫瘍です。

2. なぜ「アジスロマイシン」が効くのか?

アジスロマイシンは本来、細菌感染に使う抗生物質ですが、実は強力な免疫調節作用を持っています。

  • ウイルスへの攻撃を促進: ワンちゃん自身の免疫力を高め、ウイルスに感染した細胞を排除しやすくします。

  • 腫瘍の縮小: 多くの臨床報告で、アジスロマイシンの投与により乳頭腫が急速に退縮(小さくなって消える)することが確認されています。

3. アジスロマイシン治療のメリット

これまでの「経過観察(自然治癒を待つ)」や「外科手術」と比較して、多くの利点があります。

  • 痛くない・怖くない: 錠剤またはシロップを飲むだけの内科治療なので、ワンちゃんに負担をかけません。

  • 全身麻酔が不要: 高齢犬や持病がある子でも、麻酔のリスクを負わずに治療が可能です。

  • 早期解決: 自然治癒を待つと数ヶ月かかることもありますが、アジスロマイシン投与では10日〜3週間程度で劇的な改善が見られるケースが多いのが特徴です。

4. 治療の流れ

通常、以下のようなスケジュールで投与を行います。

  • 投与期間: 1日1回、5日間〜10日間程度の連続投与(症例により調整)。

  • 経過観察: 投与開始から1週間〜2週間でイボが乾燥し始め、ポロリと取れる、あるいは吸収されるように消えていきます。


人医における「アジスロマイシン」の知見

​犬の乳頭腫治療にアジスロマイシンが導入された背景には、実は人医(人間の医学)における豊富な治療実績があります。

​1. 皮膚科領域での確立された効果

​人間の皮膚科において、特定の乳頭腫症(癒合性細網状乳頭腫症:CRP)に対して、アジスロマイシンは「非常に効果的で安全な治療選択肢」として広く認められています。

多くの症例で、他の治療法に抵抗性を示した病変が、アジスロマイシンの投与によって劇的に改善することが報告されています。

​2. 「抗生物質」の枠を超えた免疫の力

​アジスロマイシンが乳頭腫に効く最大の理由は、本来の「菌を殺す」作用ではなく、その独自の**「免疫調節作用(イムノモジュレーション)」**にあります。

  • 免疫の活性化: 停滞していた自己免疫を呼び覚まし、ウイルスへの攻撃を促進します。
  • 抗炎症・抗腫瘍効果: 異常な細胞増殖を抑え、病変の退縮を早める働きが注目されています。

​3. 獣医学への応用と信頼性

​犬の口腔乳頭腫に対するアジスロマイシンの有効性を検証した有名なランダム化比較試験(2008年)も、これら人医での成功例をヒントに行われました。

その結果、犬においても**「10日間〜15日間の投与で、外科手術なしに病変を完全消失させる」**という驚くべき結果が得られ、現在の治療プロトコルの根拠となっています。

さらに詳しく:なぜアジスロマイシンがイボに効くのか?

通常、アジスロマイシンは細菌感染症に使用される抗生物質ですが、ウイルス性の乳頭腫に対しては「殺菌」とは異なる**「免疫調節作用」**が重要な役割を果たします。

免疫の「スイッチ」を入れる効果

アジスロマイシンには、ワンちゃん自身の免疫細胞(マクロファージやリンパ球など)を活性化させる働きがあると考えられています。この薬を服用することで、それまでウイルスを見逃していた免疫システムが「これは排除すべきものだ」と認識し、強力に攻撃を開始します。

ウイルス増殖の抑制

最新の研究では、アジスロマイシンがウイルスの増殖に必要なタンパク質の合成を阻害する可能性も示唆されています。自己免疫の強化とウイルスの抑制、このダブルパンチによって、驚くほど短期間での退縮が可能になるのです。


犬の乳頭腫治療に関するよくある質問(Q&A)

飼い主様からよく寄せられる疑問にお答えします。

Q. 治療中に注意すべきことはありますか?

A. 基本的には普段通りの生活で問題ありませんが、イボを無理に引っ張ったり傷つけたりしないよう注意してください。アジスロマイシンの副作用として、稀に軟便や嘔吐が見られることがあります。もし体調に変化があれば、すぐに当院へご連絡ください。

Q. 他のワンちゃんにうつりますか?

A. はい。原因はウイルス(CPV)ですので、多頭飼育の場合やドッグランなどでは感染する可能性があります。特に免疫が未発達な子犬や、免疫力が低下している高齢犬は注意が必要です。治療中は、他の犬との密接な接触(顔を近づける、同じ食器を使うなど)を避けるのが安心です。

Q. 治った後に再発することはありますか?

A. 乳頭腫ウイルスに対する免疫が一度成立すると、多くの場合、同じタイプのウイルスに対しては生涯にわたって強い抵抗力を持ちます。そのため、完治した場所からすぐに再発することは稀です。ただし、免疫力が著しく低下した場合などは、別の部位に新しいイボができる可能性はゼロではありません。

Q. どのくらいの大きさのイボまで薬で治りますか?

A. 数ミリの小さなものから、数センチにまで成長した多発性のイボまで、アジスロマイシン治療の対象となります。大きくなりすぎて食餌に支障が出ている場合や、出血がひどい場合は外科処置を優先することもありますが、まずは内科的な治療で様子を見る価値は十分にあります。

まとめ:イボを見つけたら、まずはご相談を

「たかがイボ」と思っても、ワンちゃんにとっては違和感やストレスの原因になります。特に、多発している場合や大きくなっている場合は、アジスロマイシンによる治療が非常に有効な手段となります。

手術を検討する前に、まずは「お薬で治す」という選択肢を考えてみませんか?

【症例報告】パグの重度口腔乳頭腫におけるアジスロマイシンとメロキシカムの併用療法

ブラジルで行われた生後6ヶ月のパグの治療事例において、アジスロマイシンとメロキシカムの併用が劇的な効果を上げたことが報告されています。

1. 症例の概要

  • 対象: パグ(生後6ヶ月、メス、体重2kg)

  • 臨床診断: 犬口腔乳頭腫症(CPV)

  • 症状: 口の周囲および口腔粘膜に、カリフラワー状の角質増殖性腫瘤が多発。急速な成長により、食事困難や呼吸への影響、口臭などの合併症が懸念される状態。

2. 犬の口腔乳頭腫症(パピローマ)とは

  • 原因と伝染: パピローマウイルスによる感染症で、主に直接接触によって伝染します。

  • 特徴: 若齢犬や免疫不全の犬に多く見られ、特にパグは免疫疾患の影響を受けやすい犬種と考えられています。

  • 部位: 舌、唇、口蓋、歯肉、頬粘膜、咽頭などに発生します。

  • リスク: 通常は良性で自然治癒の可能性もありますが、完治に最大12ヶ月を要する場合があり、その間に痛みや不快感を伴います。また、稀に扁平上皮癌へ進行するリスクも指摘されています。

3. 治療プロトコル(アジスロマイシン+メロキシカム)

従来、決定的な治療法に乏しかった本疾患に対し、ヒトの医学で実績のあるアジスロマイシンと、細胞増殖抑制効果が期待されるメロキシカムを組み合わせた治療が行われました。

4. 驚くべき治療経過と結果

  • 早期退縮: 治療開始からわずか数日以内に病変の顕著な縮小が確認されました。

  • 完全消失: 治療開始10日後には、病変が完全に消失しました。

  • 安全性: 治療期間中、副作用の報告は一切ありませんでした。

  • 長期予後: 治療後12ヶ月間にわたるモニタリングの結果、再発は認められませんでした。


結論:飼い主様へのメッセージ

この症例報告は、これまで「自然に治るのを待つしかない」とされてきたワンちゃんのイボに対し、アジスロマイシンとメロキシカムの併用が極めて短期間で、かつ安全に完治させる有効な選択肢であることを示しています。

特に食事や呼吸に影響が出ている場合や、早期に治してあげたい場合には、非常に推奨される治療法です。

この記事の監修 :名古屋で37年間動物救急医療を行っている こざわ犬猫病院 院長獣医師:小澤賢記

参考文献

犬の口腔乳頭腫症 – アジスロマイシンとメロキシカムの併用による治療
Acta Sci Vet. 2025年1月;53 Suppl(1):1029. 23 文献

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