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猫の炎症性腸疾患

猫の炎症性腸疾患 について

猫の炎症性腸疾患(IBD)

猫の炎症性腸疾患(IBD)は、3週間以上続く慢性的な消化管症状を特徴とする、原因不明の炎症性疾患の総称です。

1. 定義と病態生理

定義

IBDは「慢性腸疾患(CE)」の一種であり、食事療法や抗菌薬療法に反応せず、免疫抑制療法を必要とする「ステロイド反応性腸症」とほぼ同義として扱われます。

発症メカニズム

環境、細菌叢(マイクロバイオーム)、食事、免疫系の異常が複雑に絡み合って発症します。

  • 免疫の暴走: 腸内の抗原(食物や細菌)に対して免疫寛容が失われ、T細胞や炎症性サイトカイン(IL-6, IL-12等)が過剰に産生されます。
  • ディスバイオシス: 腸内細菌の多様性が低下し、有害な菌が増加することで炎症が悪化します。
  • 粘膜の構造変化: 慢性的な炎症により、腸の絨毛萎縮、線維化、リンパ管拡張などが起こり、吸収不良やタンパク質の漏出(タンパク漏出性腸症:PLE)を招きます。

2. 臨床症状と身体所見

症状は断続的で、良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。

  • 主な症状: 体重減少(51-90%)、嘔吐(55-80%)、食欲不振(39-70%)、下痢(49-65%)。
  • 部位別:
  • 胃・十二指腸: 嘔吐、小腸性下痢。
  • 結腸: 大腸性下痢、しぶり腹、血便、粘液便。
  • 身体所見: 脱水、腹水、浮腫(低タンパクによる)、腹痛、触診で厚くなった腸管。
  • 併発症: 膵炎、胆管炎、IBDが同時に起こる「三腺炎(Triaditis)」が猫では重要です。

3. 診断ステップ

IBDは「除外診断」であり、他の疾患ではないことを証明することで診断されます。

検査項目

  • 血液検査(CBC/生化学): 貧血、好酸球増多、低アルブミン血症、低リン血症、肝酵素上昇など。
  • 特殊検査:
  • 血清コバラミン(B12)/葉酸: 吸収不良の指標。低コバラミンは予後不良因子となり得ます。
  • fPLI: 膵炎の併発を確認。
  • 画像診断:
  • 超音波検査: 腸壁の層構造の維持を確認しつつ、筋層の肥厚やリンパ節腫脹を評価。
  • バイオマーカー: カルプロテクチン、CRP、AGP、THBS1などが炎症の指標として研究されています。
  • 組織生検(ゴールドスタンダード):
  • 内視鏡または開腹手術により採取。
  • リンパ形質細胞性(猫で最多)、好酸球性、好中球性などに分類。
  • 重要: 小細胞性リンパ腫(SCL)との鑑別が非常に困難であり、特殊染色やクローン性検査が必要になることがあります。

4. 治療と管理

治療は「段階的」に行われ、症状の重症度やアルブミン値に基づいて決定されます。

① 食事療法

  • 選択肢: 加水分解タンパク食、新規タンパク食(鹿、ウサギ等)、高消化性食。
  • 反応: 1〜2週間で改善が見られることが多く、50〜100%の症例で有効です。

② 抗菌薬・駆虫薬

  • フェンベンダゾール(駆虫)、メトロニダゾール(抗生物質)などが使用されます。

③ 免疫抑制療法(中等度〜重症の場合)

  • プレドニゾロン: 第一選択薬。2 mg/kg/日から開始し、徐々に減量。
  • ブデソニド: 全身への副作用を抑えたい場合(糖尿病併発など)の代替案。
  • クロラムブシル: ステロイドで改善しない難治例に使用。

④ 支持療法

  • コバラミン補充: 低値の場合、注射や経口で補給。
  • プロバイオティクス/プレバイオティクス: 腸内環境の正常化をサポート。
  • 幹細胞療法: 近年、脂肪由来間葉系幹細胞の有効性が示唆されています。

5. 予後

  • 軽症〜中等症の多くは食事や抗菌薬でコントロール可能です。
  • 重症例や低アルブミン血症がある場合は、長期的な免疫抑制療法が必要となることが多いです。

予後不良因子: 低コバラミン血症(<200 ng/L)、PLIの上昇。

 

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